好きなラジオを語る

シンクロのシティは2019年9月26日、最終回を迎えた。当日僕は日本におらず、旅行先のデンマークのホステルからVPN接続を使ってRdikoで放送を聴き、朝ごはんを食べながら号泣していた。
 以下はJ-WAVE WACODES内のラジオの勉強会にて「好きなラジオ」をテーマに書いた文章。この文章を書いている時はまさか、シンクロが終わるなんてイチミリも考えていなかった。

 TOKYO FMの15時から16時50分の間、2時間にわたって放送。その日その日のテーマについて、事前に収録した街の声と生放送中に届くメッセージを、パーソナリティの堀内貴之が、柔らかく優しい感性と、トークからも感じられる経験値の高さ、明るくそれでいて落ち着いた声で受け止め、回していく。ボイス収集を前面に出した番組構成が特徴。

 僕はこの番組がラジオメディアの特徴をうまく使った、現在に至る9年間の「芸術作品」だと思う。これほどに、等身大の「東京」が表現されている番組を知らない。2015年に大勢のファンの要望によって番組終了決定が撤回された、というエピソードからも、多くの人にとって必要不可欠で唯一無二のものとなっていることがうかがえる。

 おそらくこの番組名の由来となったであろう「シンクロニシティ」という言葉がある。例えば、行きの電車で一緒だった人とたまたま帰りの電車でも一緒だったり、高校で出会った親友と誕生日が一緒だったり、そういう不思議な、運命的な感覚を指す。つまり、因果関係にない2つの事象が偶然に、観測者にとって1つの意味を持つような現象のことだ。

 そもそもラジオは、多くの場合リスナーから匿名でメッセージを募っており、さらに、音声だけ、出演者の声と音楽だけで番組が構成されていることから、他のリスナーとの共感、同期が起こりやすい特殊なメディアだ。
 その「シンクロ」にフォーカスし、意図的に強めた番組がこの「シンクロのシティ」だと言える。事前に収録した街の声と生放送中に届くメッセージがリスナー間にシンクロニシティを生じさせる。

 「年齢も、出身も、価値観だって違う。」「会ったことがないのに自分に似ている言葉、知っているような感覚。」「知らない誰かとシンクロする。」これが、パーソナリティの堀内さんによる番組冒頭の口上だ。この哲学が番組のすべてに毛細血管のように張り巡らされている。

 東京という大きな街で様々なバックグラウンドとともに生きる大勢の人たちを、僕たちはしばしば、色々な枠組みで捉え、記号化してしまう。究極は「東京の人は冷たい」なんて言う人までいる。

 しかしこの番組が生み出す「シンクロニシティ」は、そんな記号が、この東京が、一人一人の生身の人間の集まりであることを感覚から思い出させてくれる。たくさんの人とこの同じ時代に生きられていることがどれだけ幸せなことか改めて感じさせてくれる。

 この番組の魅力はそんなところにあります!!
(2019年3月17日 ラジオ企画 好きなラジオを語る場所にて)

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